最近家康の様子がおかしい。
忙しい、とすれ違いばかりだし、やっと顔を合わせても目も合わさずさっさと行ってしまう。
私から声をかけなければそのまま通り過ぎてしまうことも。
「どうかしたのか?浮かない顔して」
「秀吉さん・・・・・・」
私は秀吉さんに最近の状況を相談した。
「今はそんなに忙しくないと思うけどなあ・・・・・・
家康のことだ、天邪鬼な部分がちょーっと強く出てるのかもしれないぞ?」
「それだけならいいんだけど・・・・・・やっぱり辛いな」
「そんな落ち込むな!後でそれとなく家康に話聞いてやるから」
「ありがとう、秀吉さん」
頼れるお兄ちゃんに相談し、少し心が軽くなった気がした。
・・・・・・・・・・・・
「よっ・・・と」
「すみません、お忙しいのに」
「全然!2人でやった方が早く終わるし」
書庫で三成くんが本に埋もれているのを発見し、事情を聞くと借りた書物を片付けていたらこうなったという。
(うわぁ、なんだか難しそうな本ばっか・・・・・・)
一冊手に取りパラパラめくってみるが、読めもしない。
棚に戻している三成くんに手渡そうと何冊か拾い上げ渡す。
何度か同じ動作を繰り返していたその時。
棚が傷んでいて重みに耐えられなかったのか、ミシミシッと音を立て崩れると同時にその棚に収まっていた本が一気に私たちへと降ってきた。
(っ・・・・・・!・・・あれ?)
痛みを感じるはずがほとんどなかった。
ぎゅっと瞑っていた目をそっと開くと目の前に三成くんが見えた。
「み、三成くん!?大丈夫!?」
「私のことより、お怪我ないですか?」
三成くんが私に覆い被さるようにして守ってくれていた。
「あ!顔とか手とか紙で切れちゃったかな・・・・・・
血が出てる」
「大丈夫ですよ、これくらい」
その時書庫の扉が開き、見覚えのある着物が目に入る。
「い、家康!?」
「・・・・・・何してんの」
「家康様、本の整理を手伝っていただいてたのです」
「この状態のどこが整理?」
「そ、それは違うよ!
棚が傷んでたみたいで、壊れて落ちてきちゃったの」
「・・・・・・とりあえずお前退けよ。
いつまでその体勢でいるつもり?」
「あ、すみません、重かったですよね」
「う、ううん全然重くないよ?
こっちこそ庇ってくれてありがとう」
三成くんが身体を起こして立ち上がり、私も身体を起こす。
すると突然家康に腕を掴まれ立たされる。
「ちゃんと片付けといてよ」
一言三成くんに言い、私を連れて書庫を出る。
「ちょ、ちょっと待って!
三成くん怪我してるから手当・・・・・・」
「かすり傷だろ?問題ない。それより俺はあんたに話がある」
城内の私の部屋に入ると襖を閉められ、久々に2人きりになった。
あんなに避けられていたのになんで───?
沈黙が続いていたが、やがて家康が口を開く。
「・・・・・・どういうつもり?」
「え?」
「無防備すぎるって前にも言ったよね。さっきの三成といい」
「だからあれは事故!三成くんは助けてくれたんだよ」
「納得できない」
怒ってる・・・けど、どこか緊張した面持ちで私を見ていて、私も視線を逸らせずにいる。
「っ・・・・・・何が納得できないの?」
「頭ではわかってる、あんたが他の男に簡単に靡くような子じゃないって。
でも・・・俺が言葉や態度でちゃんと示さないから、あんたがいつか心変わりするかもしれないと思うと・・・・・・」
私は家康の手を取り、そっと包み込む様に自分の手を重ねる。
「ありがとう、家康。心配しないで、私は家康だけだよ?
今も、これからも・・・・・・」
「みっともないよね、俺」
「ううん、むしろそんな風に想っててくれたんだってわかって嬉しい。
じゃあ最近私を避けてたのって・・・・・・やきもち、みたいな?」
「・・・・・・なに、にやついて」
「家康がやきもち妬いてくれるなんて思わなかったから嬉しくて」
「っ・・・・・・喜ぶのはまだ早いよ。
今まで触れ合えなかった分、たっぷり可愛がってあげるから」
空いていたもう片方の手で私の顎をくいっと持ち上げ、至近距離で見つめられる。
「いいよ・・・・・・家康大好き」